賃貸借契約の成立の流れとしては,

①賃借人(予定者)が宅建業者の賃貸物件の店頭広告を見る・HPを見る。

②賃借人(予定者)が宅建業者と賃貸借契約の締結を交渉する。

③宅建業者が賃借人(予定者)に重要事項説明をする。

④賃借人(予定者)が賃貸借契約の申込みをする。

⑤賃貸人(予定者)が賃貸借契約を承諾する。

⑥賃貸借契約が成立する(正式に賃借人と賃貸人になる。)。
 

「キャンセル」という用語は,賃借人(予定者)の契約の申込み前の,契約締結の交渉段階での賃借人(予定者)の契約締結交渉の一方的な破棄という意味で使用します。


「申込みの撤回」という用語は,賃借人(予定者)が契約の申込みをしたが,賃貸人が承諾する前に賃借人(予定者)が一方的に申込みを撤回したという意味で使用します。

つまり,「キャンセル」は「申込み」前の段階である次の段階における

②賃借人(予定者)が宅建業者と賃貸借契約の締結を交渉する。

③宅建業者が賃借人(予定者)に重要事項説明をする。

賃借人の一方的な交渉の打ち切り行為を指すものとします。
 

賃貸借契約の手続きにおいて,賃借人(予定者)が申込証拠金という金銭を支払うことがあります。申込証拠金は,契約が成立した場合には,賃貸借契約成立の際に支払う諸費用に充てられますが,契約が不成立の場合は,賃借人に返還されるべき金銭です(宅建業法第四十七条の二第3項)。

賃貸借契約が賃貸物件の入居当初から存在する欠陥(瑕疵)により,解除された場合であっても,

宅建業者に対して仲介手数料の返金を請求できないのが原則です。宅建業者は賃貸借契約を成立させているので,成立の対価として仲介手数料を受領することができるからです。


賃貸物件の入居当初から存在する欠陥により,賃借人が賃貸借契約を解除できる場合(賃貸目的を満たさないような欠陥がある場合,契約締結の条件を満たさない賃貸物件であった場合など)には,賃貸人に対して,仲介手数料相当額の損害賠償を請求することになります。

ただし,宅建業者が賃貸物件に賃貸目的を満たさないような入居当初からの欠陥を知っていた場合には,宅建業者は不適切な賃貸物件を紹介したことになりますので,宅建業者に対して仲介手数料の返金を請求することができます。
 
(1)
契約は,諾成契約が原則ですので,理論上は,賃貸借契約も口約束だけで契約は成立することになります。したがって,賃借人の契約の申込みに対して,賃貸人が承諾をした時に契約は成立します。

しかし,不動産の賃貸借契約は,不動産の売買と比較すると金額が低額になるとはいえ,以後,1年以上にわたって契約関係を継続することになることが多く,しかもほとんとが居住用目的であることに照らすと,簡単な口約束で契約の成立が認定されるものではありません。

なお,定期建物賃貸借契約は,書面によって契約をする必要がありますので(借地借家法38条1項),要式契約ということになります。さらに定期建物賃貸借契約の場合は,あらかじめ更新がないことを契約書とは別の書面を交付して説明しなければならないとされており,この書面を交付して説明していない場合は,定期建物賃貸借契約ではなく,期間の定めのない普通の賃貸借契約を締結したことになります。

 
(2)
通常は,賃貸借契約書に賃借人と賃貸人の両者が署名押印した時に,賃貸借契約は成立したことになります。

ところで,賃貸借契約の締結の実務として,賃貸借契約書への署名押印の際,賃借人と賃貸人が同席するということは,通常ありません。

まず①賃借人が賃貸借契約書に署名押印して,②それを仲介の宅建業者が賃貸人に持参して,③賃貸人が署名押印し,④宅建業者が賃借人に賃貸借契約書を交付するのが,よくあるパターンだと思われます。

場合によっては,④の前に,入居開始日が到来するため,先に賃借人がカギを受け取り,入居し,その後に賃借人は賃貸借契約書の交付を受けるときもあるようです。

この場合は,すでに賃貸人が賃貸借契約書に署名押印したか,少なくとも賃貸人が契約の申込みに対して承諾をした上で,仲介の宅建業者に対してカギを賃借人に渡すよう指示しているはずですので,賃貸借契約は成立していることになります。
 
(3)
問題は,賃借人が賃貸借契約書に署名押印した後に申込みを撤回できるかどうかです。民法524条において「承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは,申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは,撤回することができない。」とされていますので,

相当な期間が経過するまでは,賃借人は契約の申込みを一方的に撤回することはできません。

たとえば,賃貸借契約の入居開始日になってもカギを受け取れない場合には,賃借人は申込みを撤回することができます。
 
(4)
しかし,そもそも契約の申込みをしたことが認められなければ,賃借人がキャンセルすることは可能です。

裁判例には,賃借人の賃貸借契約書への署名押印が「確定的な申込み」であると事実認定する事例があり,そもそも申込みではなく契約締結の交渉段階というのであれば,賃借人の行為は「申込み」に該当しないため,賃借人が一方的にキャンセルすることが可能となります。

契約の申込みに該当する場合は,賃借人は一方的に撤回することはできません。
 
(5)
仲介の宅建業者による重要事項説明は,賃貸借契約の締結「前」に行うものとされていますので,
重要事項説明の前においては,契約は成立していないと解されます。宅建業法という業法規制が民法の賃貸借契約の成否に直接影響するとは言えませんが,裁判所における事実認定において,重要事項説明の前であっても契約は成立していたとの賃貸人側の立証のハードルは高いものと思われます。

よって,賃借人側は重要事項説明の前であることを理由に,そもそも申込みすらしていないのでキャンセルすると主張すべきです。
 
(6)
宅建業者が賃貸人から賃貸借契約締結の代理権を授与されていた場合は,賃借人が賃貸借契約書に署名押印し,賃貸人の代理人である宅建業者がクレームをいれることもなく,賃貸借契約書をそのまま受け取った場合には,賃貸人の明示又は黙示の承諾があったとして,その時点で契約は成立したことになります。

賃貸人からの代理権の授与は,賃借人が契約書に署名押印した時に,賃貸借契約書に明記されていたなど,明示されていなくてはなりませんから,宅建業者が後出しで代理権の授与を主張することは認められません。

 
(7)
賃貸借契約を仲介する宅建業者の中には,賃貸の宅建業者の従業員については,業態の性質なのか,すぐに辞めて入れ替わることが多いようなのです。宅建業者が「当時の担当者は辞めたのでわかりません。」と言って,責任逃れをすることがあるようですが,法律上は,当時の担当者が辞めようが辞めまいが,会社の責任ですので,賃借人は会社である宅建業者に責任を追及することができます。

賃貸の仲介報酬は,最大でも賃料1ヵ月分と消費税となっており,売買に比べると安いこと,繁忙期はとても忙しいことから,どうしても賃貸借契約の説明は手抜きになりがちなようです。実際の担当者の給料について,基本給が安く,契約成立の歩合給が多い場合は,なんでもかんでも契約を成立させるという方向に傾きやすくなるといえるでしょう。
 
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